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宮本顕治

"ミヤケン" 赤色リンチ事件 非合法時代の共産党を象徴する"スパイ査問"という闇

img011_600.jpg みやもと・けんじ
 1908年、山口県光市生まれ。
 東京帝国大学学生時代に文
 芸評論家としてデビュー。
 31年、日本共産党に入党。
 34年、スパイ査問事件で逮
 捕。45年に釈放。55年六全
 協で党の主導権を握り、実
 質的なトップにつく。



マコーこと浜田幸一は衆議院予算委員会の委員長席に座ったことがある。1988(昭和63)年のことだ。その委員会の一コマである。質問に立つ共産党委員の発言を引き取ってハマコー委員長自らが、突然、発言した。
 「お応えします。我が党は旧来より、終戦直後より、殺人者であるミヤザワケンジ君を国政の中に参加せしめるような状況を作り出し…」
 共産党が猛反発して委員会は騒然となった。ミヤザワケンジはミヤモトケンジ、共産党委員長宮本顕治の言い間違いである。ハマコーの周囲の議員があわてて耳打ちしたが、訂正するまでもなく、すぐに宮沢賢治ではなく宮本顕治のことだと全員に了解された。立花隆が『文藝春秋』に連載(76年1月号~77年12月号)した「共産党の研究」で、この事件、日本共産党最大のタブー、「赤色リンチ事件」は広く知られていたからである。


硫酸、焼けた火箸
件は33(昭和8)年にあった。当時、日本共産党中央委員だった宮本顕治ら4名が、党員の大泉兼蔵と小畑達夫を監禁して暴行を加え、ふたりのうち小畑を死亡させ、アジトの床下に埋めたとう事件である。暴行は焼けた火箸や硫酸も使った陰惨なものだった。スパイだったことを認めた大泉が逃亡して事件は発覚し、宮本顕治らは逮捕され治安維持法違反、殺人、同未遂、死体遺棄で起訴され、裁判では無期懲役に処せられた。
 判決文にはその状況がこう書かれている。
 「小畑を組み伏せ、尚も大声を発し死力を竭して抵抗する同人を一同にて押しつけ、似てその逃亡を防止せんとして互いに格闘し、因って同人に対し頭部、顔面、胸部、手足等に多数の皮下出血その他の障害を負わしめ、ついに同人をして前記監禁行為と相俟って外傷性虚脱死に因り同日午後二時頃その場に急死するに至らしめた」
 「殺人者」発言の予算委員会はハマコーが委員長を辞任して決着がついたが、スパイ査問事件を巡る立花vs共産党の論争は長く続いた。

img014_600.jpg







『多数のスパイが暗躍』
争の詳細は前出書や関連資料を読んでもらうとして、投じの日本共産党が置かれた時代を抜きにしてこの事件を語るのは不公平である。
 当時の共産党は君主制の廃止、つまり天皇制の打倒を主張していたから非合法の団体である。治安維持法は共産党を対象につくられたものだった。
 共産党の内部に特高警察のスパイが潜入していたのは事実である。伝説的な"スパイM"によって党は破壊的な打撃を受けたし、党員の逮捕はおおむねスパイの暗躍によるものだった。
 一説によると中央委員の半数がスパイだったり、実質上、スパイによって党が運営された時期すらあったという。
 そして逮捕された共産党員は転向するか、野呂栄太郎、小林多喜二のように拷問の果てに殺されるか、宮本顕治のように網走刑務所に死ぬまでつながれるしかなかった。もっとも共産党もコミンテルン経由で入手した拳銃などで武装していたのは、かつて共産党員であった田中清玄らの武勇伝に知られる通りである。
 立花vs共産党の論争は自然消滅していく。宮本顕治に代わり、不破、志位体制が成立し、宮本の影響力が消滅したからである。今、宮本顕治は共産党系の代々木病院に入院している。痴呆状態にあるとも噂されているが、病床がある階はガードされていて、共産党でも幹部しか近寄れないそうである。2007年7月18日午後2時33分、同病院にて死亡。享年98歳。

(桃井四六氏より転載)
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